午前I問題
生体認証における本人拒否率(FRR:False Rejection Rate)と他人受入率(FAR:False Acceptance Rate)に関する記述のうち、最も適切なものはどれか。
ア)FRRとFARは独立した指標であり、一方の値を下げてももう一方には影響しない イ)一般に照合の閾値を厳しく(厳格に)設定するとFARは低下するがFRRは上昇する、というトレードオフの関係にある ウ)FRRは他人を誤って本人と認識してしまう確率を表し、セキュリティ上最も重視すべき指標である エ)生体認証ではFARを0%にすることが技術的に容易であり、多くのシステムで実現されている
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正解: イ
解説:
- ア)不正解。FRRとFARは同一の照合閾値を挟んでトレードオフの関係にあり、独立していない。閾値を動かすと一方が改善すれば他方が悪化する。
- イ)正解。照合閾値を厳格にする(類似度をより高く要求する)と、他人を誤って受け入れる確率(FAR)は下がるが、本人を誤って拒否してしまう確率(FRR)は上がる。逆に閾値を緩めるとFARは上がりFRRは下がる。用途に応じたバランス設定が求められる。
- ウ)不正解。「他人を誤って本人と認識する確率」はFAR(他人受入率)の定義であり、FRR(本人拒否率)は逆に「本人を誤って拒否する確率」を指す。定義が入れ替わっている。
- エ)不正解。生体情報は個人ごとに完全に一致する測定が困難(同一人物でも測定条件でばらつく)であるため、FARを0%にすることは技術的に極めて困難であり、実運用では許容可能な閾値に調整される。
午前II問題
生体認証システムに対するpresentation attack(提示攻撃、なりすまし攻撃)とその対策に関する記述のうち、適切なものはどれか。
ア)presentation attackとは、生体認証システムのデータベースに直接不正アクセスし、登録済みテンプレートを窃取する攻撃を指す イ)presentation attackとは、偽造した指紋(グミ指等)や写真・マスクなどを用いてセンサーに提示し、生体認証を突破しようとする攻撃を指し、liveness detection(生体検知)が有効な対策となる ウ)liveness detectionは静止画像の解像度を上げることで実現され、赤外線センサーや脈拍検知などの生体特有の反応を利用する技術は不要である エ)presentation attackはハードウェアセンサーの脆弱性のみが原因であり、アルゴリズム側での対策は不可能である
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正解: イ
解説:
- ア)不正解。データベースへの不正アクセスによるテンプレート窃取は別のカテゴリの脅威(テンプレート攻撃・データベース侵害)であり、presentation attackはセンサーへの物理的な提示段階での攻撃を指す。
- イ)正解。presentation attack(PA)は、偽造指紋(グミ指、シリコン指紋)、顔写真、3Dマスク、コンタクトレンズ型の虹彩偽造物などをセンサーに提示し、正規の生体情報になりすます攻撃。ISO/IEC 30107ではPAD(Presentation Attack Detection)として対策が規格化されており、liveness detection(生体検知)は代表的な対策技術である。
- ウ)不正解。liveness detectionは解像度向上ではなく、赤外線による皮膚下の血流検知、瞬き・瞳孔の反応、脈拍、3D深度センサーによる立体構造の確認など、「生きた人体特有の反応・構造」を検知する技術によって実現される。
- エ)不正解。presentation attackへの対策はハードウェア(赤外線センサー、深度センサー等の追加)だけでなく、AIによる画像解析(テクスチャ解析、微細な動きの検出等)というアルゴリズム側の対策も広く実用化されている。
午後問題
金融機関G社は、スマートフォンアプリでの本人確認(eKYC)と、支店窓口での高額取引時の本人確認に顔認証を導入することを検討している。セキュリティ部門は導入前のリスク評価で以下の懸念を洗い出した。
- SNS等に公開されている顧客の顔写真や動画から、写真・動画再生・ディープフェイクによるなりすましのリスクがある
- 生体情報(顔特徴量)はパスワードと異なり、漏洩しても本人が「変更」することができない
- eKYCはリモート環境(利用者のスマートフォン)で実施されるため、対面窓口と異なりオペレーターによる目視確認ができない
設問1
リモートeKYCにおいて、写真・動画再生・ディープフェイクによるなりすまし(presentation attack)を防ぐために、どのような技術的対策を講じるべきか、2つ挙げて説明しなさい。(150字程度)
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正解例: ①liveness detection(生体検知)を導入し、利用者にランダムな指示(瞬きする、顔を左右に振る、指定方向を向く等のチャレンジ)を出し、リアルタイムの反応を確認することで録画済み動画や静止画による攻撃を検知する。②深度センサーや赤外線カメラを用いた3D構造解析により、平面的な写真・画面表示との区別を行い、ディープフェイクを含む2次元的な偽装を排除する。
解説・採点基準(計15点):
| 採点項目 | キーワード | 配点 |
|---|---|---|
| liveness detection(チャレンジ応答方式)の説明 | ランダム指示・リアルタイム反応確認 | 7点 |
| 3D/深度・赤外線等によるハードウェア対策の説明 | 深度センサー・赤外線・立体構造解析 | 6点 |
| ディープフェイクへの言及 | 2次元偽装の排除・動画生成物の検知 | 2点 |
部分点: 対策を1つのみ正しく説明→最大7点。
設問2
「生体情報は漏洩しても変更できない」という特性を踏まえ、G社が顔認証システムを設計する際に考慮すべき運用上・技術上の対策を、テンプレート保護の観点から説明しなさい。(150字程度)
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正解例: 顔特徴量(テンプレート)そのものを平文で保存せず、不可逆な変換(キャンセラブルバイオメトリクスやハッシュ化技術)を適用して保存し、万一データベースが漏洩しても元の生体特徴を復元できないようにする。また変換パラメータを施設・用途ごとに変えることで、漏洩時にはそのパラメータのみを失効・再発行し、生体情報自体を変えずに新しいテンプレートとして再登録できる仕組みを設計する。
解説・採点基準(計15点):
| 採点項目 | キーワード | 配点 |
|---|---|---|
| テンプレートの非可逆変換保存の説明 | キャンセラブルバイオメトリクス・ハッシュ化・平文非保存 | 8点 |
| 変換パラメータの失効・再発行による代替手段の説明 | パラメータ変更・再登録・失効可能性の確保 | 7点 |
部分点: 「暗号化して保存する」のみの記述(非可逆変換への言及なし)→4点。
重要キーワード
| 用語 | 説明 |
|---|---|
| FAR(他人受入率)/ FRR(本人拒否率) | 生体認証の精度指標。FARは他人を誤って受け入れる確率、FRRは本人を誤って拒否する確率。照合閾値の設定によりトレードオフの関係にある |
| presentation attack(提示攻撃) | 偽造指紋・顔写真・マスク・ディープフェイク動画などをセンサーに提示し、生体認証を突破しようとする攻撃。ISO/IEC 30107でPAD(Presentation Attack Detection)として規格化されている |
| liveness detection(生体検知) | センサーに提示された対象が生きた本人であることを確認する技術。チャレンジ応答(瞬き指示等)、赤外線、脈拍検知、3D深度解析などで実現される |
| キャンセラブルバイオメトリクス | 生体特徴量を非可逆な変換関数で変換して保存する技術。漏洩時には変換パラメータのみを変更して再登録でき、生体情報自体の「失効不能性」の課題を緩和する |
| 多要素認証(MFA) | 生体認証は「本人固有の身体的特徴(inherence)」要素として、知識要素(パスワード)や所持要素(トークン)と組み合わせることで認証強度を高められる |
| eKYC(electronic Know Your Customer) | オンラインで本人確認を完結させる仕組み。顔認証と身分証確認を組み合わせるが、対面確認と異なりなりすまし対策(liveness detection等)がより重要となる |
まとめ
- 午前I視点: FARとFRRは照合閾値を挟んだトレードオフ関係。「閾値を厳しくするとどちらが上がりどちらが下がるか」を混同しないこと。
- 午前II視点: presentation attackはセンサー提示段階でのなりすましであり、データベース侵害によるテンプレート窃取とは異なるカテゴリ。liveness detectionの実現手法(チャレンジ応答・赤外線・深度センサー)を具体的に理解する。
- 午後視点: リモート環境でのなりすまし対策(liveness detection)と、生体情報の「変更不能性」に対するテンプレート保護(キャンセラブルバイオメトリクス)の両観点を、対面確認との違いを踏まえて説明できることが採点ポイント。