午前I問題
組織における訓練・演習の実施目的に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア)訓練・演習は、参加者に手順書どおりに行動できたかを採点し、成績の悪い担当者を特定して処罰することを主目的とする。
イ)訓練・演習は、実際の緊急事態が発生する前に、手順や体制上の課題を安全な環境で発見し、改善につなげることを主目的とする。
ウ)訓練・演習は一度実施すれば十分であり、環境や体制の変化があっても再実施する必要はない。
エ)訓練・演習のシナリオは、参加者が確実に成功できる平易な内容にとどめるべきであり、対応が難航するような状況を想定してはならない。
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正解: イ
解説:
- ア)不正解。訓練の目的は個人の処罰ではなく、組織的な課題(手順の不備・連絡体制の不備等)を発見し改善することにある。
- イ)正解。訓練・演習は実際のインシデント発生前に、安全な環境(実害が生じない環境)で手順・体制の弱点を洗い出し、改善サイクルを回すことを目的とする。
- ウ)不正解。組織体制・システム構成・脅威動向は変化し続けるため、訓練・演習は定期的に再実施し、変化に対応した実効性を維持する必要がある。
- エ)不正解。平易な内容のみでは実践的な課題が発見しにくく、意思決定の難しい状況や想定外の要素を盛り込むことで、より実効性の高い訓練となる。
午前II問題
インシデント対応の机上演習(Tabletop Exercise:TTX)に関する記述として、適切なものはどれか。
ア)TTXは実際にシステムを停止・切替する実機操作を伴う訓練であり、机上でのディスカッションのみで完結する訓練はTTXとは呼ばない。
イ)TTXは、想定されるインシデントシナリオに沿って参加者が議論しながら意思決定プロセスを検証する訓練形式であり、実際のシステム操作を伴わずに実施できる。
ウ)TTXのシナリオは技術部門のみが参加対象であり、経営層や広報部門が参加する必要はない。
エ)TTXの実施後は、参加者の満足度アンケートの集計のみを行えばよく、課題の是正計画(アクションアイテム)の策定は不要である。
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正解: イ
解説:
- ア)不正解。実機を用いた訓練(ライブ演習・機能演習)とは異なり、TTXは参加者が会議形式でシナリオに沿って議論し意思決定プロセスを検証する、実機操作を伴わない訓練形式である。
- イ)正解。TTXの特徴は、低コストかつ低リスクで実施できる点にあり、システムを実際に操作せずシナリオベースの議論を通じて手順・体制の課題を洗い出す。
- ウ)不正解。重大インシデントでは技術対応だけでなく、経営判断・危機管理広報・法務対応が必要になるため、経営層や広報・法務部門を含めたクロスファンクショナルな参加が効果的である。
- エ)不正解。TTXの成果は、演習で発見された課題を具体的な是正計画(アクションアイテム)として整理し、担当・期限を定めてフォローアップすることにあり、アンケート集計だけでは演習の価値を活かせない。
午後問題
R社のCSIRTでは、年次の机上演習(TTX)を計画しており、演習設計担当のS氏がシナリオを作成することになった。過去の演習は「ランサムウェア感染」という単純なシナリオで、技術部門のみが参加し、対応手順の読み合わせに終始する内容であった。参加者アンケートでは「実際の緊急time帯の混乱が再現されておらず、学びが少なかった」との指摘が多く寄せられていた。
S氏は今回、以下の要素を盛り込んだシナリオを設計することにした。
シナリオ概要:
・深夜2時に基幹システムでランサムウェア感染を検知(オンコール担当者への一次連絡から開始)
・被害範囲の調査中に、並行して顧客から「個人情報が漏えいしているのではないか」という
問い合わせがコールセンターに入る(未確定情報への対応が必要)
・調査の途中で、バックアップの一部も暗号化されていたことが判明する(復旧計画の見直しが必要)
・経営層への報告タイミングと、マスコミへの対応要否の判断が求められる
設問1
S氏が今回のシナリオに「未確定情報への顧客対応」や「バックアップ暗号化の判明」といった要素を追加した設計上の狙いを、過去の演習への指摘を踏まえて70字程度で述べよ。
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正解例: 手順の読み合わせだけでは実際の緊急時特有の情報不足・想定外の事態による混乱や意思決定の難しさを再現できないため、より実践的な判断力・部門間連携の課題を洗い出す狙いがある。(約88字)
解説: TTXの実効性を高める設計のポイントは、想定外の要素(インジェクト:Inject)を演習の途中に投入し、参加者に不確実な状況下での意思決定を経験させることにある。過去の演習が「手順どおりに進む」平易な内容にとどまっていた反省を踏まえ、複数の課題が同時多発的に発生する現実的な複雑性を再現することで、実践的な課題抽出につなげる狙いがある。
採点基準(計15点):
| 採点項目 | キーワード | 配点 |
|---|---|---|
| 過去の演習の課題(現実の混乱が再現されていない)への言及 | 現実の混乱の再現、想定外の事態 | 6点 |
| 不確実な状況下での意思決定・判断力の検証という狙いへの言及 | 意思決定の難しさ、判断力 | 6点 |
| 部門間連携等、複合的な課題抽出という視点 | 部門間連携、複合的課題 | 3点 |
設問2
本演習には技術部門に加えて、経営層・コールセンター・広報部門の参加が想定されている。それぞれの部門が本演習を通じて確認すべき論点を1つずつ、計3つ挙げよ。
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正解例:
- 経営層: 深夜のインシデント発生から経営層への報告・エスカレーションがどのタイミング・基準で行われるべきか、また事業継続に関わる意思決定(システム停止の可否等)を誰がどの権限で下すかを確認する。
- コールセンター: 個人情報漏えいの有無が未確定な段階で、顧客からの問い合わせにどのような回答テンプレート・エスカレーション基準で対応すべきかを確認する。
- 広報部門: マスコミ対応の要否をどの時点・どの情報をもって判断するか、また危機管理広報の原則に沿った一次公表の準備プロセスを確認する。
解説: TTXの価値は、部門横断でインシデント対応時の役割分担・意思決定基準・情報連携のタイミングを事前にすり合わせられる点にある。各部門が自部門の論点だけでなく、他部門との連携ポイント(コールセンターの一次対応と広報の公表方針の整合等)を確認することが、演習後のアクションアイテム策定につながる。
採点基準(計15点):
| 採点項目 | キーワード | 配点 |
|---|---|---|
| 経営層の論点(報告基準・意思決定権限)が具体的に示されている | エスカレーション基準、意思決定権限 | 5点 |
| コールセンターの論点(未確定情報への対応基準)が具体的に示されている | 回答テンプレート、エスカレーション基準 | 5点 |
| 広報部門の論点(マスコミ対応判断・公表準備)が具体的に示されている | マスコミ対応、一次公表準備 | 5点 |
重要キーワード
| 用語 | 説明 |
|---|---|
| 机上演習(TTX:Tabletop Exercise) | 実機操作を伴わず、シナリオに沿った議論を通じて意思決定プロセスや手順の課題を検証する訓練形式 |
| インジェクト(Inject) | 演習の途中に投入する想定外の追加情報・事態。参加者の判断力を試す目的で用いられる |
| クロスファンクショナル参加 | 技術部門だけでなく経営層・広報・コールセンター等、複数部門が横断的に参加すること |
| アクションアイテム | 演習・レビューで発見された課題に対し、担当と期限を定めて是正する具体的な行動計画 |
| エスカレーション基準 | インシデントの重大度に応じて、どの段階で誰に報告・判断を仰ぐかを定めた基準 |
| 危機管理広報 | 危機発生時に事実と未確定事項を区別しつつ早期・継続的に情報発信する広報活動 |
まとめ
- 午前I視点: 訓練・演習の目的は処罰ではなく安全な環境での課題発見と改善にあり、定期的な再実施と現実的なシナリオ設計が重要という一般原則を理解する
- 午前II視点: TTXは実機操作を伴わない議論形式の訓練であり、技術部門だけでなく経営層・広報等を含めた部門横断的な参加が効果的である点を押さえる
- 午後視点: 想定外の要素(インジェクト)を盛り込む演習設計の狙いを論理的に説明し、部門ごとに異なる論点(報告基準・顧客対応基準・広報判断)を具体化して整理する力が問われる