午前I問題
情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)のリスクアセスメントにおけるリスク対応の選択肢に関する記述として、適切なものはどれか。
ア)リスクの移転とは、保険契約や業務委託によってリスクに伴う財務的な影響を第三者に負担させることであり、これによって事故が発生する確率も同時に低下する。
イ)リスクの回避とは、リスクが発生する活動や環境そのものをやめることであり、当該リスクはゼロになるが、リスク源となっていた事業機会も失われる可能性がある。
ウ)リスクの受容とは、リスク値が受容基準を上回っていても、コストや技術的制約から対策を施せない場合に経営判断としてリスクを許容することである。
エ)リスクの低減とは、サイバー保険の加入や業務委託によって組織内部のリスク量を減少させることであり、リスクの移転と本質的に同じ概念である。
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正解: イ
解説: ISO/IEC 27001のリスク対応の4選択肢のうち、「回避(Avoidance)」はリスクが生じる活動・環境そのものをやめることで、当該リスクをゼロにできますが、その事業機会や便益も失われます。ア)リスク移転(保険・委託)は財務的影響を第三者に移しますが、事故が発生する確率(リスクの発生可能性)自体は変わりません。ウ)リスク受容はリスク値が受容基準以下の場合に選択するものです。受容基準を超えているのに許容することは適切な受容とは言えません。エ)保険加入・業務委託はリスクの「移転」です。「低減」はファイアウォール導入・アクセス制御など技術・組織的管理策によってリスクの発生可能性や影響度を下げることです。
| リスク対応 | 概要 | 例 |
|---|---|---|
| 回避(Avoidance) | リスクが生じる活動をやめる | 危険なサービスの廃止 |
| 低減(Reduction) | 管理策でリスクの発生可能性・影響度を下げる | ファイアウォール・暗号化 |
| 移転(Transfer) | 財務的影響を第三者に移す | サイバー保険・SLA委託 |
| 受容(Acceptance) | 受容基準以下と判断して許容する | 低リスクのケースを許容 |
午前II問題
サイバーセキュリティ基本法に基づいて設置された機関および関連機関の役割に関する記述として、適切なものはどれか。
ア)NISC(内閣サイバーセキュリティセンター)は、民間企業や重要インフラ事業者から報告されたサイバーインシデントの技術的な詳細分析と、CERT/CCなどの海外機関との実務的な国際連携を主な業務としている。
イ)JPCERT/CC(一般社団法人JPCERTコーディネーションセンター)は独立行政法人として設置されており、SC試験などの情報処理技術者試験の実施とセキュリティガイドラインの策定を担っている。
ウ)IPA(情報処理推進機構)は、脆弱性情報の収集・公表、情報処理技術者試験の実施、及びセキュリティガイドラインの策定を担う独立行政法人であり、NISCやJPCERT/CCとは異なる役割を担っている。
エ)サイバーセキュリティ基本法は、重要インフラとして電力・金融・医療・航空など10分野を指定しており、これらの分野の事業者に対してインシデント発生時の政府への報告を義務付けている。
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正解: ウ
解説: IPA(情報処理推進機構)は独立行政法人であり、脆弱性情報の収集・公表(JVNポータル)・情報処理技術者試験(SC試験を含む)の実施・セキュリティガイドラインの策定など、国内向け支援機能を担います。ア)サイバーインシデントの収集・分析・国際連携(CERT/CCとの連携)を主な業務とするのはJPCERT/CCです。NISCの主な役割は国家サイバーセキュリティ戦略の策定・省庁間調整・政府機関へのサイバーセキュリティ対策に関する勧告です。イ)JPCERT/CCは独立行政法人ではなく一般社団法人(民間団体)です。エ)重要インフラは2022年以降14分野(情報通信・金融・航空・空港・鉄道・電力・ガス・政府行政・医療・水道・物流・化学・クレジット・石油)に拡充されており、10分野は誤りです。
| 機関 | 設置形態 | 主な役割 |
|---|---|---|
| NISC | 内閣府設置 | 国家戦略策定・省庁間調整・政府機関への勧告 |
| JPCERT/CC | 民間(一般社団法人) | インシデント収集・注意喚起・国際連携(CERT/CC等) |
| IPA | 独立行政法人 | 脆弱性情報公表・試験実施・ガイドライン策定 |
| NICT | 国立研究機関 | サイバー攻撃の観測・研究 |
午後問題
G社(従業員1,500名、製造業)はISO/IEC 27001に基づくISMS認証を取得・維持している。情報セキュリティ委員会では年次のリスクアセスメントを実施中であり、今年度の見直しで以下の3つのリスクが特定された。
- リスクA:工場制御システム(OT環境)へのランサムウェア感染リスク。リスク値:高。推定対策費用:5,000万円/年。
- リスクB:社内ファイルサーバへの権限昇格による内部不正リスク。リスク値:中。推定対策費用:200万円/年。
- リスクC:廃棄予定のノートPC(50台)に残存するデータの漏洩リスク。リスク値:低。推定対策費用:30万円/年(専門業者によるデータ消去)。
またG社は、重要インフラである電力会社向け制御システムを一部受託製造しており、2024年施行の経済安全保障推進法に基づく影響を受ける可能性がある旨を法務部門から指摘された。
設問1
リスクAについて、ISMSの観点から採りうるリスク対応の選択肢を2つ挙げ、それぞれの具体的な実施内容と選択時の判断ポイントを述べよ。また、リスクCについてG社が取るべき最も適切なリスク対応を1つ選び、理由を述べよ。
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正解例(リスクAの対応選択肢):
選択肢①:低減(Reduction)
- 実施内容:OT環境をITネットワークから分離(エアギャップまたはDMZ構成)、制御システム専用のウイルス対策導入、パッチ管理の徹底、定期バックアップと復旧訓練の実施
- 判断ポイント:制御システム停止による製造ライン停止は事業継続に深刻な打撃を与えるため、技術的管理策によってリスクを許容レベルまで引き下げることが現実的
選択肢②:移転(Transfer)
- 実施内容:ランサムウェア被害の復旧費用・事業中断損失をカバーするサイバー保険の加入、インシデント対応専門会社との契約締結
- 判断ポイント:5,000万円の対策費用に対し、保険料・免責額・補償上限を費用対効果で比較検討する。OT環境を対象とした保険商品の選定と適用範囲の確認が重要
正解例(リスクCの対応): 低減が最適。費用対効果が高く(30万円/年・50台)、廃棄PC1台あたり約60万円の対策コストは合理的。リスク値が「低」であっても個人情報・機密情報が含まれる場合は受容は不適切であり、専門業者によるデータ消去を実施することで残存データの漏洩リスクを排除する。
採点基準:
- リスクAの対応2つの名称(各1点)
- 各対応の具体的実施内容(各1点)
- 判断ポイント(コスト・事業影響への言及)(各1点)
- リスクCの選択(低減)と理由(費用対効果・データ性質への言及)(2点)
設問2
法務部門から指摘された経済安全保障推進法について、以下の2点を答えよ。
(1)G社が受託製造する電力会社向け制御システムに関して、経済安全保障推進法の「特定社会基盤事業者」制度が適用される場合、電力会社(発注者)に求められる対応の概要を述べよ。
(2)G社(サプライヤー)の立場から、このリスクに対してISMSの枠組みで取りうる対応を1つ挙げ、具体的な管理策とともに述べよ。
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正解例(1): 経済安全保障推進法の特定社会基盤事業者制度では、電力・ガス・水道・鉄道・通信等の重要インフラ事業者が、重要設備(基幹システム・制御システム等)を新たに導入または更新する際に、事前に政府への届出と審査を受けることが義務付けられる。具体的には、設備の仕様・サプライヤー情報(資本関係・役員の国籍・技術情報管理体制等)を届出書に記載し、国家安全保障上のリスクの有無について審査を受ける。G社が製造する制御システムがこの「重要設備」に該当する場合、電力会社はG社に関する情報を届出に含める必要があり、G社の体制整備状況が審査に影響する。
正解例(2): ISMSの「供給者関係(サプライヤー管理)」管理策(ISO/IEC 27001 附属書A・組織的管理策)を活用し、電力会社から求められる情報の適切な提供体制と管理体制の文書化を整備する。具体的には、①セキュリティ要求事項を含む供給者契約の見直し、②従業員のバックグラウンドチェック方針の策定・文書化、③技術情報・設計情報へのアクセス制御の強化と記録の整備、④G社の下請けサプライヤーへのセキュリティ要件の伝達と管理。
採点基準:
- 「事前届出・審査」への言及(2点)
- 「重要設備・サプライヤー情報の提出」への言及(2点)
- ISMSの供給者管理/サプライチェーンセキュリティへの言及(2点)
- 具体的管理策(文書化・契約・アクセス制御・下請け管理)の記述(2点)
重要キーワード
| 用語 | 説明 |
|---|---|
| ISMS(ISO/IEC 27001) | 情報セキュリティ管理システムの国際標準。PDCAサイクルと附属書Aの管理策で構成 |
| リスク対応の4選択肢 | 回避(活動停止)・低減(管理策実施)・移転(保険・委託)・受容(許容)の4類型 |
| サイバーセキュリティ基本法 | 2014年施行。NISCの設置根拠。国家のサイバーセキュリティ戦略の基盤を定める |
| NISC | 内閣サイバーセキュリティセンター。国家戦略策定・省庁間調整・政府機関へのサイバーセキュリティ勧告 |
| 経済安全保障推進法 | 2022年成立・2024年施行。重要インフラの特定社会基盤事業者に重要設備の事前届出・審査を義務付ける |
| 供給者管理(サプライヤー管理) | ISMS附属書Aの管理策。サプライチェーン全体へのセキュリティ要件の浸透と文書化 |
まとめ
- 午前I視点: ISMSリスク対応の4択(回避・低減・移転・受容)は定義・例・注意点をセットで覚える。特に「移転はリスク発生確率を変えない」「受容はリスク値が基準以下の場合に適用」という誤りやすいポイントを押さえる
- 午前II視点: NISC・JPCERT/CC・IPAの役割は混同しやすい。設置形態(内閣府・民間一般社団法人・独立行政法人)と主業務の組み合わせを整理する。重要インフラは「14分野(2022年以降)」が正しい
- 午後視点: OT環境リスクにはリスク低減(ネットワーク分離等)とリスク移転(サイバー保険)の組み合わせが実務的。経済安全保障推進法のサプライチェーンへの影響はISMS供給者管理と結びつけて論述できるように準備する