概要
クラウドコンピューティングはオンプレミスと異なり、セキュリティの責任がCSP(Cloud Service Provider)とユーザで分担されます。この「責任共有モデル」を誤解すると、重大なセキュリティリスクが生じます。SC試験では責任共有モデル・サービスモデルごとの違い・クラウド固有のリスクが出題されます。
クラウドサービスモデルの比較
IaaS・PaaS・SaaSの定義
| モデル | ユーザが管理する範囲 | CSPが管理する範囲 | 例 |
|---|---|---|---|
| IaaS | OS・ミドルウェア・アプリ・データ | ハードウェア・仮想化・ネットワーク | AWS EC2・Azure VM |
| PaaS | アプリ・データ | OS・ランタイム・ミドルウェア以上 | AWS RDS・Heroku |
| SaaS | データと利用設定のみ | アプリを含む全スタック | Salesforce・Office365 |
責任共有モデル詳細
SaaS の責任分担:
CSP:[物理][ネットワーク][仮想化][OS][ランタイム][ミドルウェア][アプリ]
ユーザ:[データ][アクセス管理][エンドポイント][設定]
IaaS の責任分担:
CSP:[物理][ネットワーク][仮想化]
ユーザ:[OS][ミドルウェア][アプリ][データ][アクセス管理][設定]
重要な誤解:SaaSでもアクセス管理・データ保護・設定はユーザ責任です。
クラウド固有のセキュリティリスク
データの所在(データ主権)
| リスク | 内容 |
|---|---|
| データの物理的場所 | データがどの国に保存されるか。日本の個人情報保護法・GDPRとの関係 |
| 越境データ移転 | GDPR「十分性認定」がない国へのデータ転送制限 |
| 行政機関のアクセス | CSPが所在する国の法律(例:CLOUD Act)による開示要求 |
マルチテナントリスク
クラウドは複数の顧客が同一のハードウェアを共有します(マルチテナント)。
| リスク | 軽減策 |
|---|---|
| サイドチャネル攻撃 | 仮想化レイヤで分離。機密データはシングルテナント構成を検討 |
| ノイジーネイバー | パフォーマンスへの影響。専有インスタンス(Dedicated Host等)で回避 |
クラウド接続のセキュリティ
| 接続方式 | 特徴 |
|---|---|
| インターネット(パブリックエンドポイント) | 一般的。TLSで暗号化 |
| VPN | 暗号化されたトンネル |
| 専用線(AWS Direct Connect等) | インターネットを経由しない専用接続。高帯域・低レイテンシ |
| VPCエンドポイント | AWSサービス間の通信をプライベートネットワーク内で完結 |
AWS Well-Architected フレームワーク(セキュリティ柱)
AWSのベストプラクティスを6つの柱で整理したフレームワークです。セキュリティ柱では以下を定義しています。
| 設計原則 | 内容 |
|---|---|
| 強力なアイデンティティ基盤の実装 | 最小権限・一時的認証情報・MFA |
| トレーサビリティの確保 | ログ・監査・アラートの統合 |
| 全レイヤでのセキュリティ | ネットワーク・コンピューティング・アプリ・データの多層防御 |
| セキュリティベストプラクティスの自動化 | Infrastructure as Code・コンプライアンス自動化 |
| データ保護 | 転送時・保存時の暗号化・鍵管理 |
| セキュリティイベントへの準備 | インシデント対応ランブックの整備 |
鍵管理サービス(KMS)
クラウドでの暗号化鍵の管理を行う専用サービスです。
| サービス | 説明 |
|---|---|
| AWS KMS | AWSマネージドの鍵管理サービス |
| Azure Key Vault | Azure の鍵・シークレット・証明書管理 |
| GCP Cloud KMS | GCPの鍵管理サービス |
鍵の管理方式:
- SSE-S3:CSPが鍵を管理(最も簡単)
- SSE-KMS:ユーザがKMSで鍵を管理(監査ログあり)
- SSE-C:ユーザが鍵を提供(最も制御が高い)
IaC(Infrastructure as Code)のセキュリティ
Infrastructure as Code(Terraform・CloudFormation等)の利点:
- インフラをコードで管理 → バージョン管理・レビュー可能
- 設定ミスの予防 → コードレビューで誤設定を発見
- 再現性 → 環境の一貫した構成を保証
セキュリティリスク:
- IaCファイルにシークレット(パスワード・APIキー)を含めてしまう
- 対策:シークレットスキャン(git-secrets・truffleHog)
SC試験での頻出ポイント
- SaaSでもユーザが責任を負う領域:データの分類・アクセス管理(MFA設定等)・設定(ファイル共有設定等)
- IaaSとPaaSのセキュリティ責任の違い:IaaSではOSのパッチ適用がユーザ責任。PaaSではCSPが担当
- データ主権とGDPR:EU市民データをGDPR十分性認定のない国に移転するには追加的な保護措置が必要
- KMSでの鍵管理の重要性:誰が鍵を管理するかによってデータへのアクセス制御の責任が変わる
- VPCエンドポイントの目的:インターネットを経由せずにAWSサービスにプライベート接続
よくある誤問・ひっかけパターン
誤り① 「SaaSを利用すれば自社でセキュリティを考える必要がない」→ 誤。アクセス管理・データ保護・設定はユーザ責任として残ります。
誤り② 「クラウドはオンプレミスより必ず安全」→ 誤。クラウドCSPのインフラは高セキュリティですが、設定ミス・権限管理ミスはユーザ責任であり、インシデントの主因です。
誤り③ 「専用線(Direct Connect)は暗号化されているため安全」→ 誤。専用線はインターネット経路を回避しますが、デフォルトでは暗号化されていません。機密データにはIPsec等の暗号化を追加する必要があります。
関連用語
- クラウドセキュリティ設定ミスとIAM過剰権限 — 設定ミスの具体例
- コンテナとKubernetesセキュリティ — クラウドネイティブなインフラのセキュリティ
- ゼロトラストアーキテクチャ — クラウド時代のネットワーク設計思想
重要キーワード
| 用語 | 説明 |
|---|---|
| 責任共有モデル | クラウドのセキュリティ責任をCSPとユーザで分担する考え方 |
| IaaS/PaaS/SaaS | クラウドの3サービスモデル。ユーザの責任範囲が異なる |
| データ主権 | データの物理的所在国と適用法律の問題 |
| KMS | クラウドの暗号化鍵を管理するマネージドサービス |
| IaC | インフラをコードで管理する手法。Terraform・CloudFormation等 |
| Well-Architected | AWSのアーキテクチャベストプラクティスを6つの柱で整理したフレームワーク |