概要
クラウドサービスの普及に伴い、設定ミスやIAM(Identity and Access Management)の過剰権限によるインシデントが急増しています。従来のネットワーク境界防御と異なり、クラウドでは設定の誤りが直接インターネットへの露出につながることがあります。SC試験では、クラウド固有のリスクと最小権限原則の実践が問われます。
主な設定ミスの種類
ストレージの公開設定ミス
S3バケットの誤公開は最も頻発するクラウドインシデントです。
問題のある設定例:
{
"Effect": "Allow",
"Principal": "*", ← 全インターネットに許可
"Action": "s3:GetObject",
"Resource": "arn:aws:s3:::my-sensitive-data/*"
}
個人情報・医療情報・認証情報などが誰でも閲覧可能な状態になります。
IAM権限の問題
| 問題 | 内容 | リスク |
|---|---|---|
| AdministratorAccess の乱用 | 全リソースへの完全アクセス権を付与 | 漏洩時の被害が最大化 |
| 長期的なアクセスキー | ローテーションされない静的な認証情報 | 漏洩しても長期間悪用される |
| 権限昇格パス | IAM権限を組み合わせて管理者権限を取得 | 通常ユーザが管理者に昇格可能 |
| サービスロールの過剰権限 | LambdaなどにAdminロールを付与 | 侵害時にAWS全体を制御される |
セキュリティグループ・ネットワーク設定
| 誤設定 | リスク |
|---|---|
| 0.0.0.0/0 へのSSH/RDP 開放 | インターネット全体からのブルートフォース |
| 不要なポートの開放 | 不要なサービスへの攻撃面拡大 |
| VPCのフローログ無効 | 不正通信の検知不能 |
IAM設計の原則
最小権限の原則(Principle of Least Privilege)
悪い例:
EC2インスタンスに AdministratorAccess を付与
良い例:
必要なS3バケットへの ReadOnly のみ付与:
{
"Effect": "Allow",
"Action": ["s3:GetObject"],
"Resource": "arn:aws:s3:::specific-bucket/*"
}
IAM設計のベストプラクティス
| 項目 | 実践内容 |
|---|---|
| MFA必須化 | ルートアカウントと特権ユーザはMFAを必須に |
| アクセスキーの廃止 | EC2・Lambda・ECSはIAMロールを使用。静的なアクセスキーを使わない |
| 定期的な棚卸し | 未使用の権限・ユーザ・ロールを削除(IAM Access Analyzer) |
| SCP(サービスコントロールポリシー) | 組織全体で危険なAPIの使用を禁止 |
| 権限境界(Permission Boundary) | IAMユーザ・ロールが取得できる最大権限を制限 |
権限昇格攻撃のパターン
例:`iam:CreatePolicyVersion` 権限を持つユーザが権限昇格
1. 新しいポリシーバージョンを作成(AdministratorAccess を含む)
2. 新バージョンをデフォルトに設定
3. 自身が管理者権限を取得
CSPM(Cloud Security Posture Management)
クラウド環境の設定を継続的に評価・監視するツールです。
| ツール・機能 | 説明 |
|---|---|
| AWS Security Hub | AWSの設定ベストプラクティスへの準拠を評価 |
| AWS Config | リソースの設定変更を記録・評価 |
| Azure Security Center | Azureのセキュリティスコアと推奨事項 |
| CSPM製品(Wiz・Prisma Cloud等) | マルチクラウドの設定リスクを横断的に管理 |
責任共有モデル
クラウドセキュリティの責任分担を定義した概念です。
| 層 | IaaS | PaaS | SaaS |
|---|---|---|---|
| データ | 顧客 | 顧客 | 顧客 |
| アプリケーション | 顧客 | 顧客 | CSP |
| OS・ランタイム | 顧客 | CSP | CSP |
| 仮想化 | CSP | CSP | CSP |
| 物理インフラ | CSP | CSP | CSP |
「クラウドは安全」という誤解の防止に重要な概念です。設定ミスは常に顧客の責任です。
SC試験での頻出ポイント
- 責任共有モデル:CSP(クラウドプロバイダ)とユーザの責任分担を理解する
- 最小権限の原則:必要最小限の権限のみ付与し、過剰な権限を排除する
- S3公開設定ミスの危険性:バケットポリシーで誤って全公開すると個人情報が漏洩する
- IAMロールとアクセスキーの違い:EC2にはロールを使い、静的な長期アクセスキーは避ける
- CSPMの目的:クラウド設定の継続的な評価・監視・是正
よくある誤問・ひっかけパターン
誤り① 「クラウドはCSPが全てのセキュリティを担保する」→ 誤。責任共有モデルに基づき、設定・アクセス管理・データ保護はユーザ側の責任です。
誤り② 「MFAがあればIAMキーを長期保存してもよい」→ 誤。静的なIAMアクセスキーはコードや設定ファイルに埋め込まれて漏洩するリスクがあります。IAMロールへの移行が推奨されます。
誤り③ 「開発環境ならAdminAcessを付与してよい」→ 誤。開発環境への攻撃から本番環境へのラテラルムーブメントが発生するリスクがあります。
関連用語
- クラウドセキュリティ設計 — 責任共有モデルの詳細
- XXEとSSRF — SSRFでクラウドメタデータから認証情報を取得する攻撃
- ゼロトラストアーキテクチャ — クラウド時代のネットワーク設計思想
重要キーワード
| 用語 | 説明 |
|---|---|
| 責任共有モデル | クラウドのセキュリティ責任をCSPとユーザで分担する考え方 |
| 最小権限の原則 | 必要最小限の権限のみ付与するIAM設計の原則 |
| CSPM | クラウド設定の継続的な評価・監視ツール・手法 |
| IAMロール | EC2やLambdaなどがAWSサービスにアクセスするための一時的な認証情報 |
| SCP | AWS Organizationsで組織全体に適用するポリシー。特定APIの使用を禁止 |
| 権限昇格 | 低権限のユーザがIAM設定の欠陥を利用して高権限を取得すること |